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木洩れ日の森から

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2011年 06月 10日

陰 翳 礼 賛

先日、駅の本屋さんに「節電コーナー」ができていました
そのコーナーのタイトルが、「陰翳礼賛
つい曳かれて、寄って見ると
谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」の文庫本を中心に、節電関係の本が並んでいます
すこし立ち読みしてみますと、以外に読みやすそうです

この本の書かれたのは、昭和八年
家を普請するにあたり、和風の造りの中にいかに先端技術を取り込むか
著者の苦心が実に面白いです
瓦斯ストーブや電気ストーブのデザインが気に入らなくて

「百姓家にあるような大きな炉を造り、中へ電気炭を仕込んでみたが、これは湯を沸かすにも都合がよく、費用が嵩むと云う点を除けば、様式としてはまず成功の部類であった。」

と、可也の懲り方である

そしてまた

「凝り性の人は、電話一つ取り附けるにも頭を悩まして、梯子段の裏とか、廊下の隅とか、出きるだけ目障りにならない場所に持っていく。その他庭の電線は地下線にし、部屋のスイッチは押入れや地袋の中に隠し、コードは屏風の陰を這わす等、いろいろ考えた挙句、中には神経質に作為をし過ぎて、却ってうるさく感ぜられるような場合もある。実際電燈などはもうわれわれの眼の方が馴れッこになってしまっているから、なまじなことをするよりは、あの在来の乳白ガラスの浅いシェードを附けて、球をムキ出しに見せて置く方が、自然で、素朴な気持もする。ゆうがた、汽車の窓などから田舎の景色を眺めている時、茅葺の百姓家の障子の陰に、今では時代おくれのしたあの浅いシェードを附けた電球がぽつんと燈っているのを見ると、風流にさえ思えるのである。 」 と

いや、同感、と、古の大文豪に対し、親近感を抱いてしまいます

しかしながら、流石は文豪

日本の「厠」の清楚なる美しさのくだりは、引き込まれるものがあります
「風流は寒きものなり」とも・・・

そして、日本の漆器についても

「茶事とか、儀式とかの場合でもなければ、善と吸い物椀の他は殆ど陶器ばかりを用い、漆器と云うと、野暮くさい、雅味のないものにされてしまっているが、それは一つには、採光や照明の設備がもたらした「明るさ」のせいではないであろうか。事実、「闇」を条件に入れなければ漆器の美しさは考えられないと云ってもいい。今日では白漆と云うようなものも出来たけれども、昔からある漆器の肌は、黒か、茶か、赤であって、それは幾重もの「闇」が堆積した色であり、周囲を包む暗黒の中から必然的に生まれ出たもののように思える。派手な蒔絵を施したピカピカ光る蝋塗りの手箱とか、文台とか、棚とかを見ると、いかにもケバケバしくて落ち着きがなく、俗悪にさえ思えることがあるけれども、もしそれらの器物を取り囲む空白を真っ黒な闇で塗り潰し、太陽や電燈の光線に代えるに一点の燈明か蝋燭のあかりにして見給え、忽ちそのケバケバしいものが底深く沈んで、渋い、重々しいものになるであろう。 」 と


蛍光灯の発明により

常に明るさを求めつずけ

それを文明と理解してきた現代人

そのことで、かつてより育んできた

日本の美意識や文化すら変質させてきたようです

ここらで一つ、電灯を消して

単に「節電」だけでなく


「陰翳礼賛」 と

洒落てみてはどうでしょう


陰 翳 礼 賛_d0082305_752542.jpg


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by takibiyarou | 2011-06-10 11:45 | 雑観


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